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健康情報
このページは、健康や食生活に関連するテーマで開催されたシンポジウム、記者発表会、学会等のレポートです。科学的で信頼でき、かつ最新の情報を掲載します。なるべく取材者の主観を入れず、できるだけ忠実にレポートすることを心がけてあります。
久しぶりに【健康情報】を更新しました

「エビデンス」ってナニ?どうやって検証するの?

エビデンス・・・・ 最近、ときどき耳にする言葉だ。「科学的根拠」などと訳されている。元々は医療分野で使われてきた学術用語なのだが、栄養分野や公衆衛生分野でも用いられるようになった。われわれ(健康・料理情報提供者)の間では、一種の流行語のようにもなっていて、「これ、京都で一番おいしいっていわれているサバ寿司なんだ」「それって、エビデンスあるの?」などという、いささか悪ノリ気味のやりとりさえ行なわれている。

しかし科学的根拠といわれても、わかったようでもありなかなかわかりにくいものでもある。だれが・どのように判断するのだろうか。


■ひとえに「論文があるかないか」で判断する


下記はある新聞に掲載された「塩分取り過ぎにつながる10の食習慣」という記事(の一部)である。
・食事は満腹になるまで
・主食を一度に2つ以上(主食重ね)
・丼物、カレー、麺類を週3回以上
・煮物を一日4皿以上
・漬物を一日2種類以上
・魚卵を一日1回以上
・麺類の汁を3分の1以上飲む
・濃い味付けを好んで食べる
・週に2回以上外食
・毎日お酒を飲む

「高血圧予防」ではなく「塩分の取り過ぎ」につながる食習慣なので、「こういうことをしてはいけない」というアドバイスだ。いかにも「さもありなん」ということばかりで、異論の余地はない。塩分のとりすぎは高血圧症やそれを要因とする動脈硬化等につながるので、できるだけ実行すべき食習慣だろう。

しかも新聞に載っている記事だし、何の問題もない・・・・かのように思える。しかし「エビデンスの確認はここからスタートする」と問題提起をするのは、この分野の専門家・佐々木敏氏(東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻疫学保健学講座社会予防疫学分野教授)。たとえ全国新聞に載っていようが、ものすごく権威のある先生がいおうが、いかにももっともらしい説に見えようが、それだけで「科学的根拠がある」と受け取ってはならないのだという。

ではどうすればいいのか? それはひとえに「それを証明する論文があるかないか」に尽きる。上の「塩分取り過ぎにつながる10の習慣」のケースでは、1つ1つの項目を証明する論文が、それぞれ存在しているかどうかを確認しなければならない。

たとえば、第1項の「主食は満腹になるまで」を例にとると、たしかに、主食(ご飯・パン・麺類)を満腹になるまで食べると、食塩摂取量は増えるような気がするのだが、肝心なのは「それを証明する研究論文があるのか」ということになる。その研究論文に行き着くための手段としては、まず新聞社に問い合わせて情報提供した研究者を聞き出す→研究者に根拠となる論文を教えてもらう→その論文が科学的に価値のある物かどうかを判断する、という手順が必要だ。

掲載記事に「出典」や「参考文献」情報が付記されてあれば、多少は楽になるが、残念ながら現状ではそういうケースのほうが少ない(雑誌やテレビやネット情報では「皆無」に近い)。


■「1つの論文で判断する」のではなく全体を俯瞰する

さて、「気の遠くなるような」手順を経て、目的の論文にたどり着いたとしても、それが「エビデンスのゴール」ではない。ある意味、ここが「スタート」となる。

その論文は科学的な条件が整っているか、目的や対象者は明確に示されているか、データの「量」は充分か、意図的な操作がなされてはいないか等々、あらゆる視点から検証されなければならない。それらのことは、最終的に「結果」として示されている「表」よりも、むしろ、その表に添えられている脚注に書かれていることが多い。研究者以外(たとえば私たちのような報道関係者)はとかく表にばかり目がいきがちだが、佐々木氏のような専門家は、表よりも脚注をじっくり読み込むのだという。

さて、表や脚注をつぶさに検討した結果「この論文は間違いなさそうだ」つまりこの論文を見る限り「主食を満腹になるまで食べると塩分のとりすぎにつながるようだ」ということが明らかになったとしても、これはまだエビデンスの第1段階である。第2段階としては、同様の研究で異なる結果、とりわけ逆の結果が出ている物がないかどうかを探さなければならない。

1つのテーマに関して複数の研究が見つかったら、第3段階として「全体としてどういうことがいえるのか」の検討に入る(この手法をメタアナリシスという)。メタアナリシスの結果、多くの研究が「主食を満腹になるまで食べれば塩分の過剰摂取になる」ことを示していれば、そこでようやく「エビデンスあり」ということがいえるようになる。

かように、エビデンスありということをいうのは大変なのだ。であれば、最初からメタアナリシス研究だけを見つけてそれを検討すればいいのではないか、と考える人もあろう。実際に「メタアナリシス研究によってこれらのエビデンスは確かめられている」という発表もある。しかし、佐々木氏は「その場合は、メタアナリシス研究を構成する個々の研究にさかのぼって1つ1つ検証しなければならない」という。つまり、順番は逆になっても、検討しなければならない課題には変わりがないのだ。

ここまで「気の遠くなるような」検証へのプロセスを紹介した。大きな問題はもう1つある。いかにも簡単に「研究を見つける」と書いたが、それはどこで・どのようにして見つけるか、こちらもきわめて重要な課題である。「主食を満腹になるまで食べると塩分のとりすぎになるかどうか」という論文を、読者ならどうやって探すだろうか?

そう!ググルのだ。つまりPCの検索機能を駆使することになる。ただし、GoogleやYahoo!で「主食 満腹 塩分 摂取量」と入力して検索すれば論文が出てくるわけではない(試しにやってみるとわかる)。使用するソフトは≪PubMed≫、入力する言語はもちろん英語。


■文献データベース《PubMed》こそエビデンス!

PubMedというのは医学・生物学・生理学・栄養学等々の分野をカバーする最大の文献データベース。世界中の約5000にも及ぶ論文誌に掲載され、かつ編集部によって「科学的価値あり」と認められた約2500万にも及ぶ論文が収録されている。残念ながら(当然ながらというべきか)英語のサイトだが、誰でも無料で利用できる。

何といっても2500万(!)編にも及ぶ論文が収録されているのだから、ここで見つからないとすれば、検索方法が悪いか、収録に値しないほどレベルの低い論文であるか、まだ誰も研究したことのない「まったく新しい研究」であるか(この可能性はかなり低いと思うが)のいずれかだということになる。

興味のある人は、一度、訪問してみるといい。少なくとも研究者は必読である。佐々木氏は「少なくとも医学・栄養学の分野の研究者であれば、このサイトで調べることなくしてエビデンスを語ってはならない。エビデンス=PubMedと考えてもいい」とさえ言い切る。

なのだが、実際に使ってみると、検索は相当量の知識と熟練度を必要とする。英単語(熟語も含む)、人名、方法論等々を入力して検索するのだが、“or”や“and”や“スペース”などの使い方によっても、検索結果は異なってくる。入力する項目が少なければ、数え切れないほどの論文がリストアップされてしまい、その中から当該の論文を見つけるのは至難の業になる。

逆に入力する項目がいたずらに多かったり、不適切だったりすると、たった1つの論文もヒットしないことになる。

運よく適正数がヒットしたとしても、その中に自分の想定したような論文があるのかないのかを探し当てるのは、これまた一苦労。さらには「これぞ!」という論文にたどり着いたとしても、その中身を正確に解読するのには、たしかな経験・知識・英語力を必要とする。

ここまで読めば理解してもらえると思うが、その道の研究者にとってさえエビデンスを確かめるのは相当に難しい。ましてや、われわれ報道する人間にとっては「難しい」どころか「不可能に近い」といっていいだろう。かといって「ここに書いたような方法でエビデンスを確認したあとでなければいっさい報道してはならない」となると、報道活動はなりたたないし、タイムリーな情報提供もできなくなる。

悩ましいところではあるが、現状で、このような確認作業をしてある記事はおそらくゼロに近いであろう。大きな課題が提起されている、といえよう。
    ☆
この記事は、佐々木敏氏が中心となり、若手研究者たちが自主運営している東京栄養疫学勉強会(10月22日、東京都文京区・お茶の水女子大学)を取材(オブザーバー参加)して執筆した。この勉強会は主として東京で、年に数回開催され、日本全国から栄養疫学の研究者が集まってくる。若手研究者であれば参加費は無料(ただし、参加するに当たっては「課題」が課せられる)。

問い合わせや参加申し込みは下記まで。
nutrepi.studygroup@gmail.com
東京栄養疫学勉強会


(平成28年10月28日 佐藤達夫)