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健康情報
このページは、健康や食生活に関連するテーマで開催されたシンポジウム、記者発表会、学会等のレポートです。科学的で信頼でき、かつ最新の情報を掲載します。なるべく取材者の主観を入れず、できるだけ忠実にレポートすることを心がけてあります。
久しぶりに【健康情報】を更新しました

トランス脂肪酸は個人が摂取制限する必要はない

■脂肪は「吸収されやすく・蓄積されやすい」

筆者が2018年3月29日のYahoo!ニュースで触れたように、ここへきてトランス脂肪酸関連の話題がネットなどを賑わすようになった。いずれも「6月からアメリカではトランス脂肪酸が禁止になる。そんな危ない油を(それを含む加工食品をも)食べないようにしよう!」というネガティブキャンペーンだ。

食品安全委員会も、そんな動きを予測してか、2018年5月24日に報道関係者を対象に「脂質の摂取〜トランス脂肪酸を理解するために〜」と題する意見交換会を開催した。講師は食品安全委員会委員・山添康氏。

前半は、「脂質の性質と吸収について」という脂質生理学の基本的な話。かなり専門的な内容で(私にとっては)難しく、ここで「わかりやすく解説」する自信がない。興味のある方は食品安全委員会のホームページを訪問してほしい。

ざっくりいうと・・・
−−脂質は親油性(脂溶性ともいう)であるため、親水性(水溶性ともいう)の糖質やたんぱく質とは異なる消化・吸収過程を経て体内に吸収される。糖質やたんぱく質は、それぞれ、ブドウ糖やアミノ酸にまで分解されて吸収され(門脈という特別な血管を通って)肝臓に至る。そして肝臓で必要な栄養素に合成されて、動脈を通じて体の細胞へと運ばれる。
これに対して脂質は脂肪酸やグリセリドに分解されるが、これらは水に溶けにくいため(血液とはなじめず)門脈ではなくリンパ系を通じて体の細胞へと運ばれる(脂質の一部は門脈から肝臓へと運ばれるものもある)。
そして、このリンパ系を通じて体細胞へと運ばれた脂質は、「吸収されやすく・貯蔵もされやすい」また「栄養素として使用されにくく・蓄積されやすい」という、やっかいな性質を持っている。
そのため、「とりすぎ」には注意しよう−−
ということになる。

■規制の対象になっているのは「部分水素添加油脂(PHOs)」

前項の話は、油脂であればすべて同じであり、特にトランス脂肪酸が貯蔵されやすいという話ではない。ただし一方で、トランス脂肪酸は大量に摂取すると、脳血管疾患や心疾患の原因となる動脈硬化を促進させる可能性が高いという研究結果が報告されてある。

そこで、平均的な食事をしているとトランス脂肪酸の大量摂取になりかねないアメリカ合衆国(USA)やカナダでは、「トランス脂肪酸の過剰摂取を防止するための対策」を講ずることになった。細かいことをいうようで恐縮だが、読者は、私がここで表現に細心の注意を払っていることに気づいてほしい。

USAやカナダは国民に対して「トランス脂肪酸やそれを含む食品の摂取制限」を推奨しているわけではない。言い換えれば、冒頭のネガティブキャンペーンのように「トランス脂肪酸が禁止になる」わけではなく、国民がトランス脂肪酸の過剰摂取にならないような施策を実施するのだ。両者は、似ているようでまったく異なる方針である。

USAとカナダの具体的な政策を説明をする前に「基本的知識」を1つだけ知っていただきたい。それは「トランス脂肪酸」と「部分水素添加油脂(PHOs)」の違い。

トランス脂肪酸というのは、脂肪を構成する元素の1つである炭素の「結合具合(トランス型結合)」を示す1つのタイプである。トランス(型結合を持つタイプの)脂肪酸は、天然にも存在する(たとえばウシの体内でも生成される)。この天然型のトランス脂肪酸を過剰摂取するリスクは、USAでもカナダでもほとんどないと考えられている。

一方で、食品加工上の必要性から「植物油に水素を部分的に添加して作る油脂」があり、これがPHOsだ。ケーキのサクサク感などを出すために、さまざまな食品に使われている。このPHOsという油脂の製造過程でトランス脂肪酸が生成されてしまう。

そのため、USAやカナダでは、これ(PHOs)を制限することにしたのだ。もちろん、製造者に対する規制である。

たとえば、トランス脂肪酸の摂取量が相当に多い(平均で総摂取エネルギー比の1.42%)カナダでの具体例は次の通り。
−−PHOsの食品への使用を禁止する(2018年9月から発効予定)。−−
カナダは、トランス脂肪酸摂取量がきわめて多い国の1つだが、そのカナダでさえ、「消費者に対するトランス脂肪酸の摂取制限」を提唱しているわけではない。企業に大して「食品を製造する際にPHOsを使ってはならない」と制限しているのだ(これによって間接的に、消費者のトランス脂肪酸摂取量が減ることを目的にはしているが)。

また、トランス脂肪酸の摂取量が「総摂取エネルギー比の1.1%」と多いUSA(米国食品医薬品庁:FDA)の具体的制限は次の通り。
−−これまではGRASとして使用できたPHOsを、2018年6月からGRASの対象から除外する。−−
(GRAS:一般に安全と見なされる食品添加物)
これもトランス脂肪酸を禁止したわけではなく(食品メーカーに対して)PHOsを食品添加物として使うことを禁止したにすぎない(こちらも、消費者のトランス脂肪酸摂取量低減が目的であることは明らかだが)。

■トランス脂肪酸よりも気をつけたいことがたくさんある!

ちなみに、前項でいう「トランス脂肪酸の過剰摂取」とは、「トランス脂肪酸由来のエネルギーが、総摂取エネルギーに対して1%以上」であることをいう。トランス脂肪酸が悪いのではなく、総摂取エネルギーの1%以上を摂取することが健康によくない、ということである。

USAやカナダはその基準をオーバーしてるので、食品企業に対してその原因となっているPHOsの使用を禁止した。一方で日本の事情はどうか。日本人のトランス脂肪酸の摂取量は(もちろん平均で)総摂取エネルギー比で0.3%である。1%をはるかに下回る。そのため、厚生労働省も食品安全委員会もトランス脂肪酸の摂取制限を打ち出してはいないし、食品企業に対するPHOsの使用制限もしてない。つまり今のところ、日本人はトランス脂肪酸の摂取をそんなに気にしなくても大丈夫。

だからといって「いくらでも摂取していい」というわけでは、もちろん、ない。放置して過剰摂取(1%以上)になれば、健康を害するリスクが生じてくる。しかし、「トランス脂肪酸(とそれを含む食品)を悪玉に仕立て上げて、それをいたずらに攻撃する」という(よくある)手法はいただけない。

私たちには、それよりも先に留意すべき健康情報がたくさんあるからだ。たとえば食塩の過剰摂取、大幅な肥満・痩せ、いきすぎた偏食、ガンや認知症を促進する食事・・・・これらを是正するだけでも、大変な知識や労力を要する。

かりに「脂肪摂取」に限ってみても、トランス脂肪酸だけにこだわるのではなく、総脂肪摂取量や飽和脂肪酸の過剰摂取に気をつけるほうが重要だという研究者もある。食品安全委員会は(厚生労働省も)トランス脂肪酸に関して「日本人では特段の規制措置は不要」と結論づけた。

(2018年6月6日 佐藤達夫)